盛岡地方裁判所 平成5年(わ)210号 判決 1995年12月22日
裁判所書記官
前川勤
被告人
本店所在地
岩手県岩手郡西根町上関第四地割五三番地の九
有限会社畠山鉄工所
代表取締役
畠山義光
被告人
氏名
畠山義光
年齢
昭和七年三月二二日生
本籍
岩手県岩手郡西根町上関第四地割五三番地の九
住居
同右
職業
会社役員
検察官
平山龍徹
弁護人
菅原一郎
主文
被告人有限会社畠山鉄工所を罰金三〇〇〇万円に、被告人畠山義光を懲役一年六月にそれぞれ処する。
被告人畠山義光に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用は、その二分の一ずつを各被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人有限会社畠山鉄工所は、岩手県岩手郡西根町上関第四地割五三番地の九に本店を置き、鉄筋、鉄骨工事の設計及び施工等を目的とする資本金二〇〇〇万円の有限会社であり、被告人畠山義光は、同会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人畠山義光は、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、完成工事収入の一部を除外し、架空材料費及び架空外注加工費を計上するなどの方法により所得を隠匿したうえ、
第一 昭和六三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が四五九八万六三六六円であったにもかかわらず、平成元年二月二八日、盛岡市本町通三丁目八番三七号所在の所轄盛岡税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一六三五万二七〇五円で、これに対する法人税額が五五九万三一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一八〇三万九四〇〇円と右申告税額との差額一二四四万六三〇〇円を免れ、
第二 昭和六四年一月一日から平成元年一二月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が一億九一四七万四三四八円であったにもかかわらず、平成二年二月二八日、前記盛岡税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が九九五一万七七九七円で、これに対する法人税額が四〇六八万八一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額七九三一万円と右申告税額との差額三八六二万一九〇〇円を免れ、
第三 平成二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における同会社の実際所得金額が三億八〇九〇万八六五八円であったもかかわらず、平成三年二月二八日、前記盛岡税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億八九一〇万六八四〇円で、これに対する法人税額が七〇六四万一七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一億四九〇二万九七〇〇円と右申告税額との差額七八三八万八〇〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全事実(判示冒頭事実を含む)について
一 被告人兼被告人会社代表者畠山義光の当公判廷における供述及び検察官に対する各供述調書
一 証人小野寺利明、同大森正秀、同田中清、同大庭博昭、同須貝幸則及び同滝村稔の当公判廷における各供述
一 立花久男、岩崎洋一、石田尚一(五項を除く)、佐藤福治、大庭博昭(六項を除く)、高橋佐一、遠藤進、大森正秀、櫻庭健三、須貝幸則(四通)の検察官に対する各供述調書
一 検察事務官鈴木薫作成の平成五年一二月二七日付け報告書二通(前二枚綴りのもの及び全七枚綴りのもの)
一 大蔵事務官作成の銀行調査書、材料仕入高調査書、外注加工費調査書、修繕費調査書、期首未成工事金調査書、期末未成工事金調査書及び事業税認定損調査書
一 大蔵事務官作成の平成七年二月二八日付け調査報告書
一 小野寺智恵子及び安保明美の取引金額等の照会に対する各回答書
一 検察事務官阿部昭一の平成七年四月一四日付け報告書(全四二枚綴りのもの)
一 豊巻斉作成の上申書
一 大蔵事務官作成の報告書
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書説明資料
一 登記官作成の商業登記簿謄本
判示第一及び第三の各事実について
一 大蔵事務官作成の完成工事高調査書(その他)、材料仕入高調査書(その他)、外注加工費調査書(その他)、役員報酬調査書(その他)及び受取利息調査書(その他)
判示第二及び第三の各事実について
一 大蔵事務官作成の完成工事高調査書
判示第一の事実について
一 押収してある法人税確定申告書(昭和六三年一二月期分)一綴り(平成六年押第一四号の一)及び法人税修正申告書(同号の二)一綴り
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(昭和六三年一二月期分)
一 検察事務官鈴木薫作成の平成五年一二月二二日付け報告書
一 大蔵事務官作成の修正申告書謄本(昭和六三年一二月期分)
一 大蔵事務官作成の領収済通知書謄本(昭和六三年一二月期分)
判示第二の事実について
一 押収してある法人税確定申告書(平成元年一二月期分)一綴り(平成六年押第一四号の三)
一 大蔵事務官作成の雑収入調査書及び寄付金の損金不算入額調査書
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(平成元年一二月期分)
一 検察事務官鈴木薫作成の平成五年一二月二四日付け報告書
一 大蔵事務官作成の修正申告書謄本(平成元年一二月期分)
一 大蔵事務官作成の領収済通知書謄本(平成元年一二月期分)
判示第三の事実について
一 押収してある法人税確定申告書(平成二年一二月期分)一綴り(平成六年押第一四号の四)
一 大蔵事務官作成の減価償却費調査書、減価償却費(一般管理費)調査書、期首未成工事金調査書(その他)及び期首未成工事金調査書(その他)
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書(平成二年一二月期分)二通
一 検察事務官鈴木薫作成の平成五年一二月二七日付け報告書(全三枚綴りのもの)
一 大蔵事務官作成の修正申告書謄本(平成二年一二月期分)二通
一 大蔵事務官作成の領収済通知書謄本(平成二年一二月期分)二通
一 検察事務官阿部昭一作成の平成六年九月二九日付け(二通)、同年二月二七日付け、平成七年三月七日付け(二通)、同年四月一四日付け(全六枚綴りのもの)各報告書
一 吉田悦子作成の上申書
(補足説明)
当裁判所は、虚偽過少申告によるほ脱犯が成立するためには申告にかかる所得額が、真実の所得額より少ないことの認識を要することは必要であるが、個々の損益につき、その存在及び金額を一々認識していなくても、さらに所得の総額についてその正確な額を知らなくても、概括的な所得を認識した上で、殊更虚偽過少の申告に及んだ場合には、虚偽過少申告行為自体も全体として所得隠匿の手段たる不正行為ということができ、したがって、免れた税額の中に、これと全く無関係な特段の事情に基づく部分が認められない限りは、申告税額と正当税額の差額全体について、右不正行為との因果関係が肯認されることはもとより、ほ脱の故意においても欠けるところはないと解するものであるが、以下においては、念のため、弁護人が弁論要旨で指摘した各争点の全部について、関係各証拠に基づき、補足して説明する。
一 昭和六三年一二月期分
1 材料仕入高の「機械分」の東邦岩手株式会社の一一四万九〇〇〇円について
弁護人は、被告人会社の経理業務を担当していた須貝幸則が、請求書の上表紙のみを見て、材料仕入と誤認したもので、過誤であり、故意がないと主張し、証人須貝もこれに添う供述をするが、須貝幸則の検察官に対する供述調書(平成五年一二月一日付け)に添付の請求書の写しには右の「機械分」に該当する品目とその金額が明白に記載されており、これを見さえすればおよそ過誤をおこすはずもないことが認められ、また証人須貝の供述によれば、同人は、昭和四九年の被告人会社設立以来経理を担当し、過去に税務署からの指導を受けた経験を有することが認められる上、法人税法における所得金額は、各事業年度を単位とし、期間計算により損益を計算すべきものとされており、それは恣意を許さず、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すべきものと解されるところからすると、請求書の内容すら見ないで損益を計算したということは、およそ有り得ない不自然な事実で信用しがたいところであるが、仮にそうであるとしても、請求書の内容すら見ないで損益を計算したとすれば、それは、その理由の如何を問わず、敢えて客観的な誤りを含みうる計算方法をとったということ、すなわち、もし実際の損益と異なる損益を計上する結果になったとしてもそれでも一向にかまわないという態度にほかならず、いわゆる誤記、誤算といったたぐいのものとは質的に異なるものであって、過誤ということは到底できない。
2 外注加工費の有限会社田中鋼設の五〇三万六〇〇〇円について
弁護人は、同社に対しては、アパートの「レジデンス青山」の工事も外注しているので右金額は架空ではないと主張し、証人須貝もこれに添う供述をするが、証人田中の供述、安保明美の取引金額等の照会に対する回答書、大蔵事務官作成の外注加工費調査書、須貝幸則の検察官に対する供述調書(平成五年一二月六日付け)によれば、右金額が架空であることが認められる。
同社が同年度に「レジデンス青山」の工事を請け負ったことは、証人田中及び同須貝の供述の一致するところであり、にもかかわらず右回答書にレジデンス青山の記載がないことは不自然ではあるが、同年度に同社が被告人会社から請け負った宮田自工、雫石野菜洗場、岩手科学社、玉山村農協玉山支所の請負金額が材料費も含まれたものなのか否かも不明確であるうえ、材料費につき、記載外で相殺されているのか否かも不明確であって、右回答書に記載がないことを重視することはできない。証人田中は、被告人会社から同年度分として支払いを受ける金額はない旨供述し、また右回答書によれば、平成二年度、三年度にも同社と被告人会社との取引があるにもかかわらず、右の五〇三万六〇〇〇円について決済した形跡がないことからすると、右金額が架空の計上であることは明らかといわなければならない。
3 修繕費の有限会社電動岩手の三二万円について
弁護人は、被告人会社の経理業務を担当していた須貝幸則が、請求書を十分検討せず、修繕費と誤認したもので、過誤であり、故意がないと主張し、証人須貝もこれに添う供述をするが、須貝幸則の検察官に対する供述調書(平成五年一二月一日付け)に添付の請求書の写しには「修理」に該当するものはその旨が明白に記載されており、これを見さえすればおよそ過誤をおこすはずもないことが認められ、前記1と同様に、過誤ということは到底できない。
二 平成元年一二月期分
1 完成工事高の日商岩井株式会社の一五四〇万円について
弁護人は、同社から東日本ハウス増改築工事のうちの鉄骨工事を一億三〇〇万円で請け負ったが、被告人会社が工事を途中で放棄し、精算がおこなわれないまま、既に支払いを受けていた八九四〇万円で法人税確定申告書を作成して提出したもので、過少に申告する故意はない旨主張し、証人須貝もこれに添う供述をする。
しかし、証人大森の供述、大蔵事務官作成の完成工事高調査書、被告人畠山(平成五年一二月六日付け)、大森正秀及び須貝幸則(平成五年一一月三〇日付け)の検察官に対する各供述調書によれば、被告人会社が工事を放棄する以前に追加工事分一八〇万円についての日商岩井と被告人会社との合意がなされ(放棄した後にかかる合意をするはずはない。)したがって工事全体の請負額は、すくなくとも右放棄の時点までには合計一億四八〇万円と確定していたこと、しかし、未完成部分及び減工事部分についての精算が遅れたため、既払分の八九四〇万円を除く残代金の約九九〇万円の支払いが平成二年二月にずれ込んだこと(なお、被告人会社が履行せず減額された一八〇万円については、平成二年一二月期分に減算処理されていること。)、また、日商岩井から被告人会社に対して、確定申告前に右残代金の請求書の提出を求められていたこと、平成二年二月ころ、被告人畠山において、須貝から渡された右残代金について娘名義の口座に入金したことなどの事実が認められ、これらを総合すると、故意がなかったとする弁護人の主張は採用できない。
2 材料仕入高の株式会社トーセンの五〇〇万円について
弁護人は、被告人会社の経理業務を担当していた須貝幸則が、同社から平成元年一〇月に溶接機を五〇〇万円で購入したことを知らずに、また請求書を十分検討せず、材料仕入と誤認したもので、過誤であり、故意がないと主張し、証人須貝もこれに添う供述をするが、岩崎洋一の検察官に対する供述調書、大蔵事務官作成の材料仕入高調査書によれば、被告人会社の同社からの仕入れは鋼材が殆どであるものの、同社は溶接機器等も扱っており、須貝幸則の検察官に対する供述調書(平成五年一二月一日付け)に添付の請求書の写しには「カンスケ」と明記され、その他の鋼材とは全く違った記載になっており、これを見さえすればおよそ過誤をおこすはずもないことが認められ、前記一の1と同様に、過誤ということは到底できない。
3 修繕費の有限会社アマダメトレックスの一九七万円(消費税を含めると二〇二万九一〇〇円)について
弁護人は、コピーボーラー(削穴機)のオーバーホールを同社に注文したところ、その際コンピューターが組み込まれたが、被告人会社の経理業務を担当していた須貝幸則が、この組み込みを知らず、全額がオーバーホール代金と判断し、修繕費として計算したもので、過誤であり、故意がないと主張し、証人須貝もこれに添う供述をする。
しかし、須貝幸則の検察官に対する供述調書(平成五年一二月一日付け)によれば、コンピューターの組み込みに当たっては、売買契約書が作成され、右供述調書に添付の装置等売買契約書の写しにはオーバーホールが一一三万円SPC32Dが一九七万円と記載されており、これを見さえすればおよそ過誤をおこすはずもないことが認められ、前記一の1と同様に、過誤ということは到底できない。
4 雑収入の桜庭鉄工所の一〇五万円について
弁護人は、これを否定するが、櫻庭健三の検察官に対する供述調書、大蔵事務官作成の雑収入調査書によれば、右の雑収入があったことが認められる。
三 平成二年一二月期分
1 完成工事高について
(一) 吉武建設株式会社の五四万九九〇三円について
証人滝村の供述、須貝幸則の検察官に対する供述調書(平成五年一一月三〇日付け)、大蔵事務官作成の完成工事高調査書、検察事務官阿部昭一作成の平成七年四月一四日付け報告書(全六枚綴りのもの)、吉田悦子作成の上申書によれば、被告人会社の経理業務を担当していた須貝幸則が、同社から追加分も含めて代金一三二六万六四〇〇円(消費税も含む)で請け負った工事を故意に代金一二七〇万円(消費税を含む)として計上したことが認められる。
弁護人は、被告人会社が不正行為をしたものではなく故意に少なく申告したものでもないと主張するが、右須貝が被告人会社の計算において右経理をしていることは疑う予知もなく、弁護人の主張は失当である。
(二) 畠山義光の七三〇万〇〇四九円について
弁護人は、完成工事高として認めうるのは、二一〇〇万円(消費税を含む)であり、二八五一万九〇五〇円(消費税を含む)は間違いであると主張する。
しかし、大蔵事務官作成の完成工事高調査書、証人須貝の供述、須貝幸則の検察官に対する供述調書(平成五年一一月三〇日付け)、被告人畠山の供述によれば、右の二八五一万九〇五〇円を畠山邸の工事高と認めることは会計処理の基準に合致していることが認められる。右各証拠によると、結局、被告人会社の経理担当の須貝が、被告人畠山から畠山邸の工事について精算を求められていながら、忙しいのにかまけて、全く精算並びに企業としての会計処理に合致した決算をしないまま申告に及んだというのが実際であって、これを故意なしとなしえないのは右一の1に述べたのと同様である。
2 材料仕入高の産業振興株式会社東北営業所の七五四五万三七六九円のうちの二八二七万七四一〇円について
証人大庭の供述、大庭博昭の検察官に対する供述調書(六項を除く)、大蔵事務官作成の材料仕入高調査書、検察事務官阿部昭一作成の平成六年九月二九日付け(二通)、同年二月二七日付け、平成七年三月七日付け(二通)各報告書、須貝幸則の検察官に対する供述調書(平成五年一一月三〇日付け)によると、被告人会社の右二八二七万七四一〇円は久保学園のビル工事用の材料スタンフレームの材料分に該当すること、この材料は、当初は産業振興株式会社から被告人会社に納入され、その請求書も送られたこと、しかし、その後、右二社と株式会社吉田産業盛岡支店との合意に基づいて、産業振興株式会社から株式会社吉田産業を経て被告人会社に納入する形をとることとし、それにともない、産業振興株式会社から被告人会社に対して、右材料についてのマイナス処理する旨の請求書を送ったこと、にもかかわらず被告人会社の経理を担当する須貝はこの材料仕入を二重に計上したことが認められる。
弁護人は、右の事実関係につき、被告人会社が納入先の変更につき同意しておらず、また同意したとしても須貝がそれに気がつかず、またマイナスの請求書が被告人会社に送付されていたとしても、須貝が見落としていたことも考えられるので、被告人会社には、架空計上することにつき不正行為も故意もない旨主張する。
しかし、右の事実関係のもとでかかる多額の金額につきプラスの請求はしっかり計上しながら、マイナス分は見落とすということ自体が極めて不自然であり、さらに右関係各証拠によると、須貝は他方で産業振興株式会社に対して合計四四九四万円もこの架空の請求書を依頼して材料仕入高を水増ししていることが認められるなど、須貝が経理上相当の注意を払っていたことがむしろ窺われるのであるから弁護人の右主張は採用しえない。
3 外注加工費の株式会社松原工業の二五四万三三一円について
弁護人は、過誤によるものであると主張するが、証人小野寺の供述、大蔵事務官作成の外注加工費調査書、小野寺智恵子作成の取引金額等の照会に対する回答書によれば、右金額が架空に計上されたことは否定しえない。
四 被告人畠山は、昭和六三年一二月期分については故意がないとの主張について
弁護人は、右のとおり主張し、被告人畠山もこれに添う供述をするが、被告人畠山の供述及び検察官に対する各供述調書、証人須貝の供述及び同人の検察官に対する各供述調書によれば、被告人会社は、被告人畠山の同族会社であり、被告人畠山は、代表取締役社長として、営業、工事の積算及び取引先に対する見積もりの呈示、工事の進捗状況の把握、機械の購入の決定等を担当していた外、銀行からの借入、手形、小切手の振出、現金の支出等についても殆ど全てを管理するなど、被告人会社の経済活動の全般について認識しており、したがってまたかかる経済活動により生ずる収益及び損費の全般について、いいかえれば、被告人会社の損益については概ね把握しうる立場にあったことが認められ、また、他方、被告人畠山と須貝とは、昭和四九年の会社設立以前からの付き合いとはいえ、須貝は、単なる使用人の立場にあり、脱税行為によって、個人的に利益を得るわけでもないのに、取引先に虚偽の請求書を作成してもらうまでして脱税行為に及んでいる外、その際、取引先に対する口止め等、被告人畠山に脱税行為が発覚するのを防止するような行動を全く取っていないことなどが認められるが、社会通念上、このような立場にあった須貝が、被告人畠山と全く無関係に単独で脱税行為をしたとは到底考えられないこと、そして、関係各証拠により、前記罪となるべき事実第一に認定したとおり、昭和六三年一二月期の実際所得金額は、四五九八万円余であったにもかかわらず、申告した金額は僅か一六三五万円余であり、前者は後者の約三倍にも及んでいることも併せ考えると、被告人畠山につき、昭和六三年一二月期分について、申告所得額を超える実際所得額があったことの認識があったことは優に認められる。
(法令の適用)
一 被告人会社につき
法人税法一六四条一項、一五九条一項(なお、罰金の寡額につき、平成七年法律第九一号による改正前の刑法六条、一〇条、平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項、刑法一五条)、二項
平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段、四八条二項
刑事訴訟法一八一条一項本文
二 被告人畠山につき
法人税法一五九条一項(なお、罰金の寡額につき、平成七年法律第九一号による改正前の刑法六条、一〇条、平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項、刑法一五条)(いずれも懲役刑選択)
平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(判示第三の罪の刑に加重)
右改正前の刑法二五条一項
刑事訴訟法一八一条一項
(量刑の理由)
本件のほ脱税額は、三事業年度分の合計額が一億二九四五万円余と高額であり、いわゆるほ脱率も、六三年度は約六八パーセント、平成元年分は約四八パーセント、平成二年分は約五二パーセントと相当な率に達している。ほ脱犯処罰の目的が、国庫に及ぼす金銭の損失の防止及び租税均衡負担義務の侵害行為に対する非難にあると解されることから、被告人らの本件犯行は相当に悪質と言わなければならない。
また、犯行態様も、取引先に依頼して架空の材料費を計上するなど計画的であり、他人を犯行に巻き込んだという点も軽視できない。
しかしながら、被告人会社は、本件発覚後、国税当局の示す税額を納付し、実質的にみれば国庫の損害は填補されていること、また本件の発覚により、被告人らは既に社会的制裁を受けていることや、被告人畠山は、前科もなく仕事一途の人生をこれまで送ってきたことなどの事情も認められるので、これらを総合考慮して、主文のとおりの刑とした。
(裁判官 鈴木信行)